No.132新着 フランス映画とヌーヴェルヴァーグ 批評家が撮り手になった「新しい波」
映画の有料上映が始まったフランスは、1950年代末に「新しい波」と呼ばれる若手監督の動きを生んだ。批評家出身の監督たちが低予算で撮った作品は、日本にも伝わり、松竹の若手監督の売り出しにも使われた。
本文と出典
あらまし
フランスは映画の発祥の地とされる。1895年にリュミエール兄弟が有料上映を行った国であり、のちに1950年代末の「ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)」を生んだ国でもある。日本の映画ファンにとっては、後者が馴染み深い。日本の若手監督にとって、一つの手本であり、宣伝の看板でもあったからだ。
主なできごと
・1895年12月28日 リュミエール兄弟がパリで有料上映を行う
・1897年2月20日 大阪の南地演舞場で映写機と作品が公開される
・1955年 トリュフォーが批評誌『カイエ・デュ・シネマ』で「作家主義」の語を初めて用いたとされる
・1958年 シャブロルが『美しきセルジュ』を撮影。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』も同年
・1959年 シャブロル『いとこ同志』が公開。トリュフォー『大人は判ってくれない』がカンヌ映画祭で監督賞を受ける
・1960年 ゴダール『勝手にしやがれ』が公開される(撮影は前年)。日本でも新外映が配給を決める
・1960年 大島渚『青春残酷物語』がヒットし、松竹が「松竹ヌーヴェルバーグ」として若手を売り出す
くわしく 映画の誕生
リュミエール兄弟は兄オーギュスト(1862〜1954年)と弟ルイ(1864〜1948年)で、改良した「シネマトグラフ」を1895年に特許にした。同年12月28日のパリでの有料公開が、世界初の有料上映とされ、世界初の映画館ともいわれる。『工場の出口』が最初期の実写映画として知られる。日本には1897年2月20日に大阪で紹介された。映画が生まれてから日本に届くまで、ほぼ1年あまりだったことになる。
くわしく 新しい波とは何か
ウィキペディアによれば、ヌーヴェルヴァーグの多くの監督は、もともと『カイエ・デュ・シネマ』誌の批評家だった。トリュフォーは1955年に同誌で「作家主義」という語を初めて用い、この考え方が彼らの土台になったとされる。いわゆる「カイエ派(右岸派)」にはトリュフォー、シャブロル、ゴダール、リヴェット、ロメールが入る。別に「左岸派」として、アニエス・ヴァルダ、アラン・レネ、ジャック・ドゥミが挙げられる。ヴァルダの『ラ・ポワント・クールト』は1956年、レネの『二十四時間の情事』は1959年、ドゥミの『ローラ』は1960年の作である。
くわしく 日本への波及
日本では『勝手にしやがれ』が公開前に新外映の配給と決まった。1960年代、松竹は大島渚、吉田喜重、石堂淑朗らの作風をフランスの若手になぞらえ、「松竹ヌーヴェルバーグ」の名で売り出した。大島の『青春残酷物語』(1960年)のヒットが口火だった。やがて大島は『日本の夜と霧』の不評などをきっかけに松竹と対立し、石堂らと独立プロを立ち上げる。
くわしく 日本の映画界が置かれていた状況
松竹が若手を売り出した1960年は、日本の撮影所の力が頂点にあった年でもある。映連の統計では、1960年の邦画の配給収入は311億2,500万円で、邦画のシェアは78.3%だった。会社が大量に作品を送り出し、客も入る時代に、会社は若い監督を「新しい波」として前に出す余裕があったことになる。ただし、売り出しの動機が宣伝にあったのか、会社の方針だったのかは、今回確かめていない。
くわしく ほかの「新しい波」の作品
フランス側では、左岸派のアラン・レネが『二十四時間の情事』(1959年)、続いて『去年マリエンバートで』(1961年)を撮った。ジャック・ドゥミの『ローラ』は1960年である。同じ時期の動きでも、『カイエ』の批評家出身の右岸派と、そうでない左岸派とは、くくりが別になる。日本で「ヌーヴェルヴァーグ」という語が広く使われるとき、どちらを指すのかは、はっきりしないことが多い。
なぜ今も語られるのか
低予算、ロケ撮影、若い作り手の自己表現という行き方が、会社の枠の中で撮る方式への対案になった。日本の例でいえば、撮影所の徒弟制度から離れて独立プロへ向かった大島の動きと重なる。新しい波は作品の作風以上に、撮り手の立ち位置を変えた動きとして語られる。
評価の分かれる点
「松竹ヌーヴェルバーグ」は、松竹が若手を売り出すために使った呼び名である。フランスの動きと同じ運動だったのか、宣伝上の呼び名だったのかは、評価が分かれる。大島らの当時の発言は今回確かめていない。
くらさんの考察
批評家から監督へという経路は、日本にはほとんどなかった。日本の若手は助監督として会社に入り、内側から作風を変えた点で道筋が違う。そのため、同じ「波」の名で呼ばれても、中身の比較には慎重さが要ると考えられる。
ジージへの問いかけ
・『勝手にしやがれ』や、松竹の若手の作品を、封切りのころに見た記憶はありますか。
・当時の若い観客にとって、フランス映画と日本の新しい作品は、同じ「新しさ」に見えたと思いますか。
出典
・ヌーヴェルヴァーグ(ウィキペディア) https://ja.wikipedia.org/wiki/ヌーヴェルヴァーグ
・リュミエール兄弟(ウィキペディア) https://ja.wikipedia.org/wiki/リュミエール兄弟
動画
・「ヌーヴェルヴァーグ」って何?【映画史】(ヌーヴェルヴァーグお笑いの映画チャンネル)https://www.youtube.com/watch?v=Ci9SZ47DvTo
・ヌーヴェルヴァーグの金字塔、ゴダール28歳の衝撃「勝手にしやがれ」(4Kレストア版)予告編(【公式】キネマ旬報)https://www.youtube.com/watch?v=qARYdFK8o4w
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