No.78新着 フィルムからデジタルへ 撮影と上映の変化と、フィルムを残すということ
映画館は2010年代初めにフィルム映写機からDCPというデジタル上映に移った。国立映画アーカイブは、デジタル保存には費用と消失の危険があるとして、フィルム原版を残す立場を取っている。
本文と出典
あらまし
映画はかつて、撮影から上映まで、すべてフィルムで行われた。いまは撮影も編集も上映もデジタルが中心になった。ここでは、映画館のデジタル化の経緯と、DCPとは何か、フィルムを残す取り組みを、国立映画アーカイブなどの資料で確かめた範囲で整理する。
主なできごと
・1986年 国立映画アーカイブ相模原分館の映画保存棟Iが竣工する
・2011年末 TOHOシネマズがデジタル化をほぼ完了する(全522スクリーンのうち516が対応)
・2011年 相模原分館の映画保存棟IIが竣工する
・2012年9月 富士フイルムが、アーカイブ用を除く映画フィルムの生産を中止する方針と報じられる
・2013年 富士フイルムが撮影用・上映用フィルムの販売を終了したと、国立映画アーカイブは説明する
・2014年 相模原分館の映画保存棟IIIが竣工し、重要文化財のフィルムを保管する
・2018年4月 国立映画アーカイブが発足する
・2026年3月末 国立映画アーカイブの所蔵フィルムが90,875本になる
くわしく 映画館のデジタル化
DCPはデジタル・シネマ・パッケージの略で、映像をデジタルデータとして上映する方式である。2012年3月に北島明弘がまとめた記事によると、当時フィルムではなくDCPで上映する映画館が急に増えていた。東映のグループが中心のTジョイは、全スクリーンにデジタル映写機を入れた。最大手のTOHOシネマズは、58館・522スクリーンのうち516スクリーンをデジタル化し、残る6スクリーンは「午前十時の映画祭」の終了後に移行する予定だった。
記事は、デジタルの利点として、フィルム特有の縦ぶれがなく画面が鮮明であること、劣化がないこと、映写技師が不要でボタン一つで上映を開始でき一括制御できること、撮影と編集のコストが下がることを挙げる。一方、フィルムの階調が失われたと残念がる映画ファンもいたと書く。課題は、映写技師の仕事が減ることと、フィルム作品を上映するにはスキャンしたデータによるデジタルリマスターが必要になることで、フィルムの作品を観る機会は次第に減ると見ていた。
撮影用フィルムについては、2012年9月のシネマトゥデイが、富士フイルムが保存用のアーカイブフィルムを除く映画フィルムの生産を中止する方針だと伝えた。理由は、デジタル化の推進が最大で、3D映画の隆盛で映画界のデジタル化が加速したことも挙げられた。世界で映画フィルムを全種類作れるメーカーは2社で、今後はイーストマン・コダックのみになると報じられた。ただし、富士フイルムは保存用の「ETERNA-RDS」で映画事業を続けるとされた。
くわしく フィルムを残す
国立映画アーカイブは、現時点で知られている長期保存の方法としては、フィルムのまま保存するのが最善だと説明する。アーカイブでいう長期保存は、少なくとも100年以上を指す。適正な温度と湿度なら、フィルムは数百年安定して保存できるという。相模原分館の保存庫は、温度2〜10℃、相対湿度35〜40%に保たれている。保存棟Iは約22万缶、保存棟IIは約26万6千缶を収め、保存棟IIIは重要文化財のフィルム1,152缶を収める。
デジタル保存にはリスクがある。データそのものは原理的には劣化しないが、記録媒体、ファイル形式、再生ソフトが長く維持されず、5〜10年程度でもデータを失う危険がある。そのため、定期的な移し替えが必要になる。米国の映画芸術科学アカデミーの試算では、4Kデジタルマスターを1年保存する費用は、フィルムのマスターの約11倍だという。
国立映画アーカイブはデジタル技術を否定しておらず、『羅生門』などの復元に活用している。ただし、フィルムを捨てることには強く警鐘を鳴らす。2Kでスキャンしたデータを後から4Kにはできないので、将来よりよい復元をするには元のフィルム原版が必要だからである。
日本の映画は、戦前の作品の多くが失われている。国立映画アーカイブの説明では、戦前期の残存率は1910年代が0.2%、1920年代が4.1%、1930年代が11.7%、1940年代が33%で、小津安二郎作品は約半分、溝口健二作品は約8割が失われたとされる。所蔵フィルムは、2020年2月末は82,946本、2026年3月末は日本映画79,750本と外国映画11,125本の計90,875本である。日本では、映画フィルムの納入を実質的に義務づける法令が、現在ない。
なぜ今も語られるのか
映画のデジタル化は、上映の手間を減らし、映像を鮮明にした一方、作品を残す難しさをかえって大きくした。フィルムで撮った映画を未来の人が観られるかどうかは、保存庫の維持にかかっている。
評価の分かれる点
フィルムの質感と、デジタルの鮮明さのどちらを良しとするかは、人によって評価が分かれる。映画ファンの中にも、階調の変化を惜しむ声があったと、2012年の記事は書く。
くらさんの考察
デジタルは便利だが、保存の費用が高いという指摘は、「新しい方式に移れば古い方式は不要になる」という考え方への反証になると考えられる。フィルム上映が現在どの程度続いているか(上映できる映画館の数など)は、今回は確かめられなかった。
ジージへの問いかけ
・フィルムの映写機が回る音や、画面の傷、フィルムの切り替わりの印を覚えていますか。
・昔観た映画をもう一度観たいとき、デジタル版とフィルム版のどちらで観たいですか。
出典
・映画保存とフィルムアーカイブの活動の現状に関するQ&A(国立映画アーカイブ) https://www.nfaj.go.jp/research/filmbunka/
・映画保存の現状とアーカイブ活動(国立映画アーカイブ) https://www.nfaj.go.jp/collection/filmbunka/
・施設紹介(国立映画アーカイブ) https://www.nfaj.go.jp/about-nfaj/shisetsu/
・国立映画アーカイブ(Wikipedia) https://ja.wikipedia.org/wiki/国立映画アーカイブ
・DCPの解説(イミダス、北島明弘、2012年3月) https://imidas.jp/genre/detail/L-107-0117.html
・富士フイルム、映画フィルムを生産中止へ(シネマトゥデイ、2012年9月12日) https://www.cinematoday.jp/news/N0045947
動画
・映画フィルムの収集・保存・復元|国立映画アーカイブの活動紹介①(国立映画アーカイブ National Film Archive of Japan)https://www.youtube.com/watch?v=LIv5TJBQNxA
関連動画
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが映画QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。