No.86新着 砂の器(松竹・1974年) 台詞をほぼ削った、親子の旅の十分間
1974年10月19日に公開された松本清張原作、野村芳太郎監督の松竹・橋本プロダクション作品。製作中の中断や、ハンセン病の描写をめぐる申し入れを経て完成した。配給収入は7億円で、1974年の邦画の第3位とされる。
本文と出典
あらまし
『砂の器』は、1974年10月19日に公開された、松竹と橋本プロダクションの第1回提携作品である。原作は松本清張、監督は野村芳太郎、脚本は橋本忍と山田洋次、音楽は芥川也寸志が音楽監督を務め、作曲とピアノは菅野光亮。上映時間は143分。
主な出演は丹波哲郎、加藤剛、森田健作、島田陽子、山口果林、加藤嘉、緒形拳。殺人事件の捜査を軸に、犯人の過去の旅へ進んでいく。
主なできごと
・1973年 橋本忍が橋本プロダクションを設立する
・1973年冬〜1974年初秋 撮影(約10か月)
・1974年10月19日 公開
・1989年 「大アンケートによる日本映画ベスト150」で13位
くわしく 企画から映画化まで
松竹で映画化の話が持ち上がり、橋本忍が脚本を担当した。橋本は原作の構成に最初は苦労したが、父子の旅を軸にする案を山田洋次と練り上げた。
その後、松竹社長の城戸四郎の判断で、製作は一度中断された。橋本は東宝、東映、大映に企画を持ち込んだが、断られたという。1973年に橋本プロダクションを設立し、東宝での製作が内定していたが、最終的には松竹と橋本プロの共同製作になった。製作費は両社の折半である。
くわしく 撮影、音楽、原作との違い
撮影は約10か月に及び、阿寒湖、竜飛崎、北茨城など全国でロケを行った。亀嵩駅は、撮影の直前に駅舎が蕎麦屋に改装されたため使えず、近隣の駅で撮った。父子の旅の部分は、橋本プロの少人数のスタッフで撮影し、橋本は膨大なフィルムを約10分にまとめて、台詞もほぼすべて削った。
音楽には約300万円がかけられた。当時の邦画の相場は約100万円だったとされる。作品の中心に据えられた曲「宿命」が、クライマックスのほぼ全体で使われている。
原作との違いも大きい。主人公の和賀英良は、前衛的な作曲家から、天才ピアニストでロマン派風の作曲家に変わった。超音波による殺人の設定は採用されなかった。
ハンセン病の描写をめぐって
全国ハンセン氏病患者協議会は、差別を助長するおそれがあるとして、製作中止を求めた。製作側は、偏見を打ち破る役割を担いたいと説明した。結果として、治療の進歩を伝える字幕をラストに入れることを条件に、製作が続けられた。刑事が患者と面会する場面は、予防服の姿から背広姿に変更されている。
なぜ今も語られるのか
配給収入は7億円で、1974年の邦画では第3位。毎日映画コンクールの大賞、キネマ旬報の脚本賞、モスクワ国際映画祭の審査員特別賞などを受けた。台詞を削った旅の部分と音楽を重ねる作り方は、映画の力を語るときの例として挙げられることが多い、と考えられる。
評価の分かれる点
黒澤明は、橋本の脚本を無駄の多い構成だと批判し、血の付いたシャツを車窓から撒く設定を問題にしたとされる。ただし、映画が大ヒットした後は何も言わなかったという。
西村雄一郎は、映画の殺人動機の描写は原作より深いと評価する一方で、原作の動機は単純すぎるという見方を示した。映画の省略や改変が原作の意図と異なる点も、議論の対象になった。
くわしく キャストと評価の数字
丹波哲郎が刑事の今西、加藤剛が和賀英良と少年期の本浦秀夫を演じ、少年期の秀夫は春田和秀、千代吉は加藤嘉が演じた。春田は台詞のない演技に苦労したが、加藤嘉の演技に支えられたとされる。
音楽の費用は、『犬神家の一族』が公開されるまで、邦画で最も音楽に費用をかけた作品だった。1989年の「大アンケートによる日本映画ベスト150」では13位に入っている。
撮影の約10か月という期間は、一つの映画としては長い。企画を各社に持ち込み、自前のプロダクションを設立して製作を続けた経緯も、背景にあると考えられる。
くわしく 興行と受賞の整理
公開は1974年10月19日で、配給収入7億円は同年の邦画の第3位にあたる。受賞は、毎日映画コンクールの大賞、キネマ旬報の脚本賞、モスクワ国際映画祭の審査員特別賞などが挙げられている。英題は『Castle of Sand』である。製作は橋本忍、佐藤正之、三嶋与四治、企画は川鍋兼男の名で記録されている。出演には、佐分利信、笠智衆、友情出演の渥美清も名を連ねる。
くらさんの考察
父子の旅の部分は、台詞を削ったことで、役者の表情と音楽に託された。一方、その作りは、原作との違いや、ハンセン病の描き方についての申し入れにつながっている。名作と呼ばれる作品が、同時に慎重な扱いが必要な題材を含んでいる例として、読み返す価値がある。
ジージへの問いかけ
・1974年に映画館で見た方は、周りにどれくらいいましたか。
・原作の小説と映画で、ご自身はどちらに強く心を動かされましたか。
・題材に配慮が求められる映画を、今はどう作り、どう見るべきだと思いますか。
出典
・ウィキペディア「砂の器 (映画)」 https://ja.wikipedia.org/wiki/砂の器_(映画)
動画
・『砂の器』 予告篇(松竹シネマPLUSシアター)https://www.youtube.com/watch?v=CPCk0LG0xFs
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